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新NISAで投資はじめ(3)、なぜ「全世界株(オール・カントリー)」に人気が集中するのか?

 生涯非課税枠が1人あたり1800万円になる「新NISA」がスタートした2024年1月4日からの投資信託の資金流出入(流入=購入、流出=解約で、その差し引きの結果)を調べると、1月19日までの累計で「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」が2535億円の資金流入で圧倒的なトップになっている。第2位の「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」が1495億円の流入であるため1000億円超の開きがある。第3位の「楽天・S&P500インデックス・ファンド」の流入額は307億円とレベルダウンするため、2024年のスタートは、「eMAXIS Slimのオール・カントリーで始まった」といえる。このトップ3は全て「新NISA」で「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の両方で購入できる銘柄だ。米国株価指数「S&P500」は19日に史上最高値を更新するなど、パフォーマンスでは圧倒しているものの、どうして「全世界株式(オール・カントリー)」が好んで購入されているのだろうか?

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 2024年1月4日から1月19日までの資金流出入を個別の投資信託ごとに累計すると、トップ10のうち、8銘柄は「新NISA」の対象銘柄となり、うち5銘柄は「つみたて投資枠」でも「成長投資枠」でも購入が可能な銘柄となった。流入額でトップになった「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」は、1月4日から19日までの11営業日で、資金流出は17日の1日のみ。11日には1日で357億円の資金流入を記録するなど、1月9日以降は1日当たり100億円を大幅に超える資金流入が継続している。ネット証券最大手のSBI証券の投信販売実績では、週間(1月15日~19日)販売金額ランキングでトップ、積立設定金額でもトップとなっており、絶大な人気を集めていることがわかる。

 ただ、今年1月のこれまでの資金流出入では「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」に軍配が上がるが、これまでの経過を振り返ると「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の方が好まれてきた。実際に、投資信託の規模を示す純資産総額では、「全世界株式(オール・カントリー)」の2兆1682億円に対して、「米国株式(S&P500)」は3兆3353億円と1兆円以上の差がある(1月22日現在)。この差を生んだ背景は、2つの投資信託のパフォーマンスの差で説明できる。

 「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」が設定された2018年10月31日を10000として、現在までのパフォーマンスを比較すると、特に、「コロナ・ショック」で大きな下落となった2020年3月をボトムにした立ち直り相場において、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」のパフォーマンスが際立って良い。常に、世界の株式市場をリードしてきたのは、「S&P500」という株価指数で表される米国のハイテク株が主導する株式市場だった。2つの投資信託の値動きは、よく似ているが、常に先行して大きく値上がりする「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」に、追随するように動く「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」が遅れている。結果的に、1月22日現在で「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」は2万1769に対し、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は2万5378とパフォーマンスの差は歴然としている。

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 そもそも「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」は、米国株を含む先進国の株式に加えて、新興国の株式も投資対象とした非常に多くの株式で構成された株価指数「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス」に連動することをめざしている。基本的に時価総額の大きな銘柄から順に指数に組み入れており、現在の世界の株式で時価総額が大きな銘柄は、米国株式市場に多いので、自ずと「全世界株式(オール・カントリー)」の組み入れ銘柄も米国株の比率が高い。2023年12月末現在の国別組入れ比率で「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」は、59.4%が米国だ。「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」は米国100%であるため、米国株式市場のパフォーマンスが好調な場合には、米国の組み入れ比率が小さい分だけ、パフォーマンスが劣後する結果になってしまう。

 実際に、2つの投資信託の組み入れ上位銘柄を比較すると、トップ10の上位7銘柄は一緒だ。ただ、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」は米国の組み入れ比率が約6割であるため、個々の銘柄の組み入れ比率も小さくなる。たとえば、組み入れ筆頭銘柄の「アップル」は、「米国株式(S&P500)」が6.7%に対し、「全世界株式(オール・カントリー)」は4.2%、同じく第2位の「マイクロソフト」は6.6%に対し3.7%となる。組み入れ銘柄数が「米国株式(S&P500)」が503銘柄であることに対し、「全世界株式(オール・カントリー)」は2839銘柄もある。特に、2023年のように、米国市場で「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる大型ハイテク株が大きく値上がりするような環境では、「マグニフィセント・セブン」を多く保有する「米国株式(S&P500)」が大きく値上がりし、米国株以外を幅広く投資している「全世界株式(オール・カントリー)」のパフォーマンスの劣後が目立った。

 しかし、2023年の後半からは、どちらかというと「米国株式(S&P500)」よりも「全世界株式(オール・カントリー)」の方が人気を集めるようになってきた。その流れが、今年1月時点では際立って大きくなっている。その理由として推察されるのが、1つには、「米国株式の割高感」だ。2020年3月以降の急速な出直り相場が、経済の「デジタル化」を背景とした米国ハイテク株主導の相場だったため、米大手ハイテク株には2021年後半から「割高」がたびたび指摘されるようになっていた。それが、2023年には生成AI(人工知能)の登場による「AI」関連人気が盛り上がったことで、半導体関連や従来のハイテク大手の株価が一段と上昇する結果になった。

 その結果、現在の株価水準は「全世界株式(オール・カントリー)」と「米国株式(S&P500)」の両方の組み入れ上位にある「アマゾン」がPER(株価収益率)で81倍、「テスラ」が67倍など、かなり割高な水準になっている。日本の「トヨタ自動車」が11倍、「ソニーグループ」が21倍などという水準と比較すると大きな違いだ。このように米国株式が「割高」といわれ、米国に景気後退懸念が出ていることなどから、今年の米国株式市場に慎重な見方が出ている。

 加えて、2023年に大きく値上がりした新興国株式市場のインド株など、米国以外の株式市場に魅力的なパフォーマンスを出す市場も現れている。新興国市場の成長に着目するのであれば、新興国にも投資する「全世界株式(オール・カントリー)」に投資するメリットがあるということになる。「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」では、国別組み入れ比率でインドへは9番目に比率が高く1.7%を配分している。また、今後、10年、20年という将来を考えれば、現在は米国が頭抜けて大きくなっている世界の経済・株式市場のウエイトは、徐々に変化することが考えられる。GDPの規模では、2050年には中国が米国を抜いて世界のトップにたち、インドも米国を上回って第2位になるという試算もある。長期投資で考えた場合は、いずれも新興国に分類される中国やインドを抜きに考えることはできない。

 もっとも、現在のところは、新興国経済への影響力が大きい中国の経済が低迷しているため、新興国株全体の動きは良くない。それに引き換え、2024年1月になって史上最高値を更新するなど、相変わらず好調な「米国株式(S&P500)」の方に期待したいと考える人も少なくない。米国の景気が悪化したとしても、すぐに持ち直して成長を取り戻すのではないかという期待感は強い。その期待が、「米国株式(S&P500)」の資金流入額を「全世界株式(オール・カントリー)」に次ぐ第2位に押し上げている。

 この他にも、2024年1月の資金流入額上位には、米国「NASDAQ100」への連動をめざす「<購入・換金手数料なし>ニッセイNASDAQ100インデックスファンド」、また、日本株の高配当株式に着目した「SBI 日本高配当株式(分配)ファンド(年4回決算型)」や「日本好配当リバランスオープン」もトップ10に食い込んでいる。これらは、いずれも「新NISA」の成長投資枠の対象銘柄になっている。投資収益について課税されない「NISA」の枠では、より大きな売買益が期待できる株式ファンドが好まれる傾向が強いと考えられる。今後、どのような投資信託が人気を集めることになるのか、今後の推移に注目していきたい。(表は、2024年の年初からの資金流入額上位の投資信託)

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